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広島地方裁判所 平成5年(ワ)72号 判決

広島市安佐南区川内二丁目四一-二

原告

島田利晃

右訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

右輔佐人弁理士

古田剛啓

名古屋市千種区丸山町二丁目二二番地

被告

株式会社キョクトー

右代表者代表取締役

草野和義

右訴訟代理人弁護士

塩見渉

右輔佐人弁理士

松波秀樹

主文

一  被告は、別紙イ号目録記載の電極研磨具を製造、販売してはならない。

二  被告は、別紙イ号目録記載の被告の所有にかかる電極研磨具を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、四七九万四五〇〇円及びうち四三四万四五〇〇円に対する平成六年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨

2  被告は、原告に対し、一二〇〇万円及びうち一〇〇〇万円に対する平成六年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、左記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者である。

(一) 考案の名称 スポット溶接の電極研磨具

(二) 登録番号 第一八九七〇五七号

(三) 出願日 昭和六三年二月五日

(四) 出願番号 昭和六三年第一四六九〇号

(五) 出願公告日 平成三年四月一六日

(六) 出願公告番号 平成三年第一八〇六九号

(七) 設定登録日 平成四年四月七日

(八) 実用新案登録請求の範囲

短柱laの両端にそれぞれ扇形状に隆起した複数個の切削刃2を放射状に突設すると共に、該切削刃2の頂面2aを短柱の中心側に低くなるように傾斜しかつ該頂面2aの中央部に略扇形状の凹溝3を形成して駒状の研磨具1となし、切削刃2を避けて短柱1にその中心軸を通る直径線を一辺4bとする貫通孔4aを設け、該研磨具1の外周面1bに旋回用器具5を装着可能に構成してなるスポット溶接の電極研磨具。

2  本件考案の構成要件は次のとおりである。

(一) 短柱の両端にそれぞれ扇形状に隆起した複数個の切削刃を放射状に突設すると共に、該切削刃の頂面を短柱の中心側に低くなるように傾斜する。

(二) かつ該頂面の中心部に略扇形状の凹溝を形成して駒状の研磨具となす。

(三) 切削刃を避けて短柱にその中心軸を通る直径線を一辺とする貫通孔を設ける。

(四) 該研磨具の外周面に旋回用器具を装着可能に構成する。

(五) スポット溶接の電極研磨具

3  本件考案は右構成を採ることにより次のとおりの作用効果を奏する。

(一) 対向する電極の双方を同時に研磨することができる。

(二) 研磨に要する圧迫が溶接機の力によって行われ、効率よく安定的な研磨作業が電極間に研磨具を介入し旋回動させるだけの簡単な作業で果たされる。

(三) 複数個の切削刃の頂面に凹溝を形成したため研磨がより能率的に行われる。

4  被告は、別紙イ号目録記載の電極研磨具(以下「イ号製品」という。)を製造販売している。

イ号製品の構造は右目録二に記載のとおりである。

5  イ号製品は本件考案の各構成要件を全部充足し、本件考案の作用効果と同一の作用効果を奏することは明らかである。

6  被告は、故意または過失により、本件考案の出願公告日の翌日である平成三年四月一七日から同六年一〇月一六日までの間、一個一万円で合計八六八九個販売した。その一個当たりの純利益は二〇〇〇円であるから、被告は、合計一七三七万八〇〇〇円の利益を得、原告は同額の損害を被った。

なお、原告は自ら代表取締役となっている株式会社アイエスに本件実用新案権を実施許諾し同社が製造販売しているが、原告は同社に対し対価請求権があるので、原告の損害は同社の損害と直接の因果関係がある。また、原告と同社とは経済的には一体化しているので実用新案法二九条一項の適用が排除されない。

したがって、原告は、被告に対し、出願公告後登録前については仮保護の権利(実用新案法一二条)の侵害による不法行為に基づき、登録後は本件実用新案権(同法二七条)の侵害による不法行為に基づき損害賠償請求権を有する。

また、被告が負担すべき弁護士費用は、本件の特殊性に鑑み二〇〇万円が相当である。

7  よって、原告は、被告に対し、本件実用新案権に基づき、イ号製品の製造、販売の差止及びイ号製品の廃棄を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右損害金計一九三七万八〇〇〇円のうち一二〇〇万円及びそのうち弁護士費用二〇〇万円を除いた一〇〇〇万円に対する不法行為の日の後である平成六年一〇月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実は知らない。

3  同4の事実は認める。

4  同5の事実は否認する。イ号製品は、同2記載の構成要件(二)ないし(五)は充足するが、同(一)は具備しない。

(一) 複数個の切削刃の形状が本件考案においてはすべて「扇形状」であるのに対し、イ号製品の四個の切削刃はそうではなく一部「三角状」であり、言葉の正確な意味において両者の形状は異なる。

(二) しかも、本件考案は、その構成要件がすべて出願前公知であり、このように全部公知の実用新案の場合は、技術的範囲を実用新案公報に記載されている字義通りの内容を持つものとして、最も狭く限定して解釈するのが相当であるから、本件考案の構成要件(一)についても複数個の切削刃の形状につき「それぞれ扇形状」のものとして、その字義通り解釈すべきであり、一部の切削刃の形状が「扇形状」でなく「三角状」であるイ号製品は、右構成要件(一)を具備しない。

5  同6の事実のうち、イ号製品の一個当たりの販売価格が一万円、純利益が二〇〇〇円であること、被告がイ号製品を平成三年四月一七日から同六年一〇月一六日までの間合計八六八九個販売したことは認め、弁護士費用については不知、その余は否認する。

(一) 原告は、自ら本件考案を実施せず、株式会社アイエスに実施許諾しているところ、その許諾の対価は一切得ていないから、原告には損害が発生しておらず、被告において賠償すべき損害はない。

(二) 仮に、原告に何らかの損害を認めるとしても、自ら実施せず、右株式会社アイエスに実施許諾していることからいって、実施料相当額を限度とするものである。通常本件のような物品についての実施料は販売価格の二、三パーセントであるから、原告の損害は実施料二パーセントとして、合計一七三万七八〇〇円(一万円×二パーセント×八六八九個)程度である。

三  抗弁-先使用による通常実施権

被告は、凹溝付きカッターを考案者である株式会社ヒラタ第二溶接課長森谷憲弘より知得し、その溝加工を橋周機器製作所に委託して凹溝付きカッターを製造し、昭和六二年一一月七日以降ケミカルジャパン株式会社をはじめ数社に販売し、現在に至るものであって、被告は、実用新案出願にかかる考案の内容を知らないで、その考案した者から知得し、出願の際日本国内で本件考案の実施である凹溝付きカッターの製造販売の事業をしていたもので、実用新案法二六条の準用する特許法七九条規定の先使用による通常実施権を有する。

四  抗弁に対する認否すべて否認する。被告主張のような事実は一切存在しない。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2及び4の各事実は当事者間に争いがなく、同3の事実は成立に争いのない乙第三〇号証、証人森谷憲弘の証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨により認められる。

二  同5の事実(イ号製品の本件考案の構成要件該当性)について

1  イ号製品が本件考案の構成要件(二)ないし(五)に該当することは当事者間に争いがない。

2  そこで、イ号製品が本件考案の構成要件(一)に該当するか否かについて判断するに、イ号製品は請求原因4(一)のように四個の切削刃は扇形状あるいは三角状であるが、扇形と三角形の相違点は一辺が円弧か直線かの違いのみであって、形状として近似しており、そして、扇形状とは、扇形のような形状という意味であるから、その中に三角状(三角形のような形状)のものを含めて解釈することもできないわけではなく、さらに、本件実用新案公報、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証並びに弁論の全趣旨によると、本件考案もイ号製品も研磨される電極は切削刃の外周面には当たらないようになっており、切削刃の外周面が円弧か、直線か、また平坦部が存在するかということは請求原因3の切削機能等の作用効果と全く関係がないことが認められる。

被告も乙第三三号証(審判請求書)において、イ号製品について、「本件考案の構成要件のすべてを具備しており、その効果も本件考案と差異がないことはその構造からして明らかであり両者は実質上同一である。」と述べている。

そして、本件実用新案は、後記認定のように被告の先使用の事実は認められず、全部公知であるとは到底いえないものであり、被告主張のように技術的範囲を字義どおりに最も狭く限定して解釈すべき理由はない。

したがって、イ号製品は、本件考案の構成要件(一)にも該当し、本件考案の構成要件を全部充足する。

三  先使用の抗弁について

1  成立に争いのない甲第六、第一〇、第一一号証(原本の存在とも)、乙第三二号証、証人森谷憲弘の証言により真正に成立したものと認められる甲第五、第七号証(原本の存在とも)、原告本人尋問の結果により原本の存在及びその真正な成立が認められる甲第一二号証、同本人尋問の結果により株式会社アイエス製のカッターであることが認められる検甲第二号証の一、二及び証人森谷憲弘の証言、原告本人の尋問の結果、被告代表者尋問の結果(但し、後記信用しない部分は除く。)を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和五九年頃からチップドレッサーの事業を始めた。原告は、システム・エンジニアリング株式会社及び株式会社アイエス(以下「アイエス」という。)の代表取締役を兼任し、システム・エンジニアリング株式会社は開発、オートーメーション等を行い、アイエスはチップドッレッサーの製造販売を行っている。原告は、昭和六〇年一二月二八日、電動ドレッサーの実用新案の出願をし、アイエスは昭和六一年の後半からその製造販売を始め、同年終わり頃から昭和六二年の始め頃、広島近辺から東海地方へ進出した。東海地方では、東海溶材株式会社の各営業所の者とともにキャンペーンを行い、その中で平田プレス工業株式会社(以下「平田プレス」という。)との取引が始まった。

原告は、電動ドレッサーに使われるカッター(溝なし)の形状について昭和六二年一月二七日に意匠出願をし、セールスポイントとしてこれを前記実用新案出願中の電動ドレッサーであることとともにパンフレットに載せ、キャンペーンを行っていた。

原告は、同年二月五日、名古屋で、当時被告の専務取締役であり現在代表取締役の草野和義(以下「草野」という。)と知り合い、草野も原告のキャンペーンに同行することになった。その後、被告は、アイエスの取扱店としてアイエスと取引を始め、同年三月、被告は、アイエス製の電動ドレッサー、カッターを平田プレスに販売した。しかし、同年六月頃から、草野は原告と一緒に営業活動をすることを止めた。

(二)  アイエスは、平田プレスから、電動ドレッサー、カッターを納めた当初より、カッターの刃を良く切れるように改良してほしいと言われ、色々改良を試み、原告は、一か月に一度は平田プレスを訪れ、切削刃の幅を工夫したり、溝を掘るなどした試作品をテストしてもらった。

同年九月一七日、原告、平田プレスの佐久間外一名、三菱電機株式会社の担当者は平田プレスの事務所においてチップドレッサーについて打合せの会合を持ち、今後ともアイエスがカッターの切削改良に努力することが確認された。その後、平田プレスの生産技術課長森谷憲弘(以下「森谷」という。)は、アイエス製カッターの改良について原告と電話で話したりしたが、同月二五日原告に対しファックスで、アイエス製カッターの不具合を指摘し、その改良として溝付きのものを図示し、これをSKH材で二四個同月二八日までに製作して送ってほしい旨依頼した。そしてその送付を受け、平田プレスがこれに熱処理して切削性及び刃具の寿命について検査した。

同年一〇月七日、原告、東海溶材の西中、平田プレスの森谷及び佐久間は、アイエス製チップドレッサーの不具合について打合せをし、右九月二五日のファックスで切削刃の角度を四五度と図示していたのを三〇度位に狭め、材質をSK3からSKH58という固いものに変え、その際森谷が図示した仕様でアイエスがカッターを製作し、さらに検討することになった。

同年一一月二三日、平田プレスは、刃が切削できない等の不具合いを洗い出し、これについての対策を内部で検討した結果、刃が切削できない点については、材質、形状について見通しが出てきたが、その他の点についてはさらに対策を立てたり実施したりする必要があり、同月二八日その打合せ議事録をファックスでアイエスの社長である原告に送った。そして原告はこの議事録を基にさらに検討、改良を重ねた。

(三)  草野及び被告の者が右一連の打合せに加わることは全くなかった。

(四)  原告は右検討及び試作を基に昭和六三年二月五日、本件実用新案権の出願をした。同月一三日アイエスは、三和株式会社から、平田プレスに納入するアイエス製チップドレッサーの注文を受けたが、その際右三和から「チップドレッサーの刃の形状がどのようなものになるか検討し、連絡を乞う。」という旨の要望がなされた。そして、原告は、この注文に基づき、平田プレス向けの電動ドレッサー、カッター(溝なし)を右三和に納入したが、その後アイエスは平田プレスから注文がなく同社に電動ドレッサー及びカッターを納入することはなかった。

2  被告代表者は、その代表者尋問において、昭和六二年九月頃、森谷から切削刃に溝を入れる工夫を聞き、同年一〇月下旬、平田プレスが製作した溝付きカッターの見本を預かって橋周機器製作所に持って行き、これによって試作品を作ってもらった、それを平田プレスへ持って行くと非常にいいということであったので、同年一一月一〇日、平田プレスに溝付きカッターを納入したと供述し、証人橋本道明(以下「橋本」という。)も、橋周機器製作所の橋本は同年一〇月下旬頃、草野から溝付きカッターの見本を見せられてその日のうちにプログラムを組んで加工し、溝付きカッターを二、三個作った、翌日草野が熱処理をしてすぐ平田プレスに見せに行くと良いということだったので、橋本は溝付きカッターを製作し、一〇月末から一一月初め頃、三〇個位被告に納入したと証言する。

しかし、前記認定のように、昭和六二年一一月二八日の段階においても、いまだ原告と平田プレスとの間で刃が切削できない等の不具合いについて協議が続けられており、平田プレスが草野の持ってきた溝付きカッターについて、すぐにこれで良いと言って、同年一一月一〇日被告に納入させたとは考えにくく、また、証人橋本は、平田プレス製作の見本と橋周機器製作所製作の試作品とは形状等が同じなのか、違うとしたらどこがどのように違うのかを具体的に述べておらず、さらに、証人森谷憲弘は同年一〇月下旬平田プレスが溝付きカッターの見本を製作しこれを草野に渡した事実を証言しておらず、前記被告代表者の供述及び橋本の証言は到底信用することができない。

右同様の理由及び乙第三号証について右森谷が平田プレスに残っている書面等を調査してその証明書を作成したことを認めるに足りる証拠がないことから、同年一一月頃平田プレスは被告から溝付きカッターを納入したという証人森谷憲弘の証言及び同人が作成したと証言する乙第三号証の記載も信用できない。

3  また、乙第五ないし第二八号証、第二九号証の一ないし四の各納品書等の記載からは溝付きのカッターか溝なしのカッターかはわからないこと、被告代表者の供述によると、同年一一月一〇日以降も溝付き、溝なし両方を販売していたということから、右各書証から被告が同年一一月七日から昭和六三年一月二六日までの間溝付きカッターを販売していた事実を認めることはできない。

被告は、平成五年六月二日付け準備書面で昭和六二年一一月七日から昭和六三年一月一二日までの間九五個の凹溝付きカッターを販売したと主張した。右主張をするに当たっては右各書証について慎重に検討したものと考えられるのに、被告代表者は、その代表者尋問において、右期間の九五個の販売について溝なしのカッターも相当混ざっている旨供述した。このような被告の主張及び代表者の供述も右各書証が溝付きカッターの納品を示すものか否か極めて疑わしいことを示しているといわざるをえない。

4  さらに、乙第一号証の製作図面は被告の先使用の事実を立証する極めて重要な証拠であるところ、被告は平成五年三月二四日付けの答弁書においては、「昭和六二年七月一三日にイ号製品に関する製作図面を作成し、その前後より試作開発した。」と主張したが、原告からその虚偽が指摘されるや、被告は同年一〇月六日付け準備書面で、右図面の作成時期を昭和六二年九月一五日頃に変更し、平成六年一二月二一日付け準備書面では、「右図面は昭和六二年一一月頃に作成されたものと考えるのが相当である。」と主張するに至った。しかし、被告代表者は、その代表者尋問において、乙第一号証の作成者である草野幹雄は作成年月日を覚えていないと供述している。右草野幹雄に右図面の作成時期を確認した際には、前記納品書等の書証を示したり、被告主張の事実関係を説明して当然記憶換気したものと考えられるが、それでも同人は作成時期を明らかにできなかったのであり、これに被告の右作成時期に関する主張の変遷を考え併せれば、乙第一号証が昭和六二年一一月頃に作成されたとする証人橋本の証言及び被告代表者尋問の結果は信用できず、他にその頃作成されたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告は右図面の作成と溝付きカッターの製作とを関連付けて主張しており(前記答弁書及び乙第三三号証の審判請求書)、右作成時期に関する被告の主張の変遷及び結局は作成時期の認定ができないことは被告主張の先使用の事実そのものを疑わせるものである。

5  その他、被告が昭和六二年一一月七日から原告が出願した昭和六三年二月五日までの間凹溝付きカッターを製造販売した事実を認めるに足りる証拠はなく、また被告が右の頃凹溝付きカッターの製造販売の事業の準備をしていた事実も認められないので、被告の先使用の抗弁は理由がない。

四  したがって、被告のイ号製品の製造販売は原告の実用新案権を侵害するから、実用新案法二七条一、二項に基づき被告はイ号製品の製造販売の中止及び廃棄をする義務がある。

五  損害額について

原告は、自らが代表取締役を務めるアイエスに本件実用新案権の実施を許諾しているものであり、原告自らが本件実用新案権を実施しているわけではない。原告とアイエスとは別人格であり、経済的に一体化しているとはいえず、また原告がアイエスに対して対価請求権を有していてもアイエスの損害が即原告の損害ということはできない。したがって、原告は実用新案法二九条二項に基づき本件実用新案権の実施料相当額を損害として被告に求めることができるにすぎない。

そして、本件実用新案権の実施料はその考案の内容、イ号製品の一個当たりの純利益(二〇〇〇円)等に鑑み売上金額の五パーセントであるとするのが相当である。

イ号製品の一個当たりの販売価格は一万円であること及び平成三年四月一七日から同六年一〇月一六日までの間の被告の販売数が合計八六八九個であることは争いがないから、被告の右間の売上金額は八六八九万円となるので、実施料相当損害金は四三四万四五〇〇円となる。

また、右不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、右不法行為の内容・認容額等に鑑み、四五万円が相当である。

したがって、被告の賠償すべき損害額は合計四七九万四五〇〇円となる。

六  よって、原告の本訴請求は、イ号製品の製造、販売の差止及び廃棄並びに右損害金四七九万四五〇〇円及びうち弁護士費用を除いた四三四万四五〇〇円に対する不法行為の日の後である平成六年一〇月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を(なお、主文第一、二項については仮執行宣言は相当でないので付さない。)、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡浩 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 土生未来子)

イ号目録

一 図面の説明

図面はスポット溶接の電極研磨具を示すもので、第一図は正面図、第二図は第一図のⅡ-Ⅱ視平面図、第三図は第二図のⅢ-Ⅲ切断正面図、第四図は第一図のⅣ-Ⅳ視左側面図、第五図は第一図のⅤ-Ⅴ切断左側面図、第六図は第一図のⅥ-Ⅵ切断平面図、第七図は第一図のⅦ-Ⅶ切断端面図、第八図は第一図のⅧ-Ⅷ切断端面図、第九図は第四図のⅨ-Ⅸ切断端面図、第十図は第四図のⅩ-Ⅹ切断端面図である。

二 構造の説明

(一) 円柱の外周面を旋回用器具に装着可能な回わり止めの平行な平坦面1b、1cによって切欠いだ形状の短柱1aの上下両端に、それぞれ扇形状あるいは三角状に隆起した四個の切削刃2s、2t、2y、2zを放射状に突設してある。

同一直線上に配置した二個の切削刃2s、2tは円弧周面の中央に位置しかつ直交する他の同一直径線上に配置した二個の切削刃2y、2zは平坦側面1b、1cの中央に位置している。切削刃2s、2t、2y、2zの頂面の外周側の約半分は平坦に形成され、内側約半分は短柱1aの中心側に低くなるように傾斜している。

なお頂面の外周側に平坦部が形成されていないものもある。

(二) 各頂面2aの中央部には円周端から傾斜面の下端近くに達する略扇形状の凹溝3が形成されている。

(三) 切削刃を避けて短柱1aにその中心軸を通る直径線を一辺4bとする貫通孔4cが設けられており、該貫通孔4cの直径線を挟む反対側の隣接する切削刃間には二個の補助貫通孔4c、4cが設けられている。また二つの補助貫通孔4c、4c間を結ぶ如く前記直径線に沿って凹溝4dが設けられている。

(四) 円柱の外周面を旋回用器具に装着可能な回わり止めの平行な平坦面1b、1cによって切欠いだ形状の短柱1aである。

第一図

〈省略〉

第二図

〈省略〉

第三図

〈省略〉

第四図

〈省略〉

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